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武蔵大学総合研究機構紀要 「Journal of Musashi University Comprehensive Research Organization」 >
No.18 >

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タイトル: The Golden Bowl における不可視の人工楽園
その他のタイトル: The Hidden Side of The Golden Bowl - A Study of invisible Paradise
著者: 牧野, 裕子
発行日: 2009年6月5日
出版者: 武蔵大学総合研究所
抄録: Henry Jamesの長編小説The Golden Bowlについて,F.O.Matthiessenは,内容が空虚で作者が一体何を言いたいのかわからないと批判的である。しかし,彼の空虚な小説には,二重操作が入り込み,二重構造を成すことが多い。J.L.Borgesは,Jamesの小説に世俗の雰囲気は感じられるが究極において超自然的なもの,宿命と地獄が包蔵されていると見なしている。そしてThe Golden Bowlにおいても,その「宿命と地獄」が秘密裏に描かれているように思われる。作中人物のAdam Ververは,他者を寄せつけまいとする,“impersonal whiteness”の状態を希求する。彼の相貌は,無機質な白い光を発する不気味な孤城のイメージを漂わせている。そしてMaggie Ververも人間離れしており,彼女独自の想像力によって現実の世界から遊離している。本質的に彼らは自己陶酔的で,彼らの眼は神を中心とした領域とは別の世界に向けられている。ふたりの世界には,“the grimacing gods”という怪異な隅像神もしくは異教の神々が存在しているのである。そしてその空間の中で,彼らは“the aesthetic principle”に基づいて,生身の人間(Amerigo公爵とCharlotte Stant)を美術品として評価し,意識の“revolution of the screw”によって生身の人間たちを彼らのペースに巻き込み,“the grimacing gods”の支配する空間の中に封じ込めてゆく。すなわち,MaggieとAdamの雪のように白く輝く冷気が充満する空間の中で,AmerigoとCharlotteの間の恋情は霧散し,彼ら(AmerigoとCharlotte)は魂を失った状態に陥り,ついには蝋人形化する。つまり,MaggieとAdamの夢想に満ちた“pattern”の中へ,彼らの眼鏡にかなう人間を“set”したのである。彼ら幻視者にとってそのような変成過程とその成就における満足感は,錬金術師が錬金術で黄金を出現させた瞬間の喜びに比肩する。つまり,ひび割れた盃に象徴される殺風景な現実界を反転させ創られた魔術的サークルこそが,不可視の「黄金の盃」あるいは黄泉の盃なのだと考えられよう。
URI: http://hdl.handle.net/11149/484
出現コレクション:No.18

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