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武蔵大学論集 「The Journal of Musashi University」 >
2009年度・第57巻 第3・4号 >

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タイトル: 金融機関の金融仲介機能の変化と国際金融不安(Ⅰ) : 影の銀行がもたらした金融危機
その他のタイトル: Shadow Banking and Financial Crisis
著者: 岡, 正生
発行日: 2010年3月10日
出版者: 武蔵大学経済学会
抄録: 影の銀行と呼ばれる投資銀行,ヘッジファンド,ビークル(SIV),トライパーティ・レポ取引が,サブプライム金融危機をもたらした原因を考察する。 大手の投資銀行は,傘下にヘッジファンドやSIV を抱え,レポ取引で調達した資金で他のヘッジファンドにも資金供給をしていた。また,大手銀行持株会社も,投資銀行業務に進出し,影の銀行業務に深い関係を持つようになった。 投資銀行やヘッジファンドの外部負債による投資は,住宅や商業用不動産価格の上昇期には,大きな収益をもたらしたが,影の銀行の資金循環の一部に,流動性供給の目詰まりが起こると損失に転じ,世界の金融・資本市場に連鎖的な信用不安が生じた。影の銀行の膨張は,既存の規制監督体制の枠から離れた金融取引であり,各国の規制監督体制の違いが,信用不安への事後対応を遅らせ世界的な金融危機を招いた。 “影の銀行システム”(Shadow Banking)という言葉は,米国の資産運用会社であるピムコ(PIMCO)のマネージング・ディレクターのポール・マカリー氏が,2007 年に開かれた米国の連邦制度理事会の年次シンポジウムで使ったものである。その後,エコノミスト誌で,この言葉が取り上げられ広く使われるようになった。また,英国の金融サービス機構(FSA)のターナー会長のターナー・レビュー(The Turner Review)でも“影の銀行”のもたらした問題が取り扱われている。 ポール・マカリー氏は,2009 年5 月のピムコのレポート「Global Central Bank Focus」で,ハイマン・P・ミンスキーによる金融不安定化の性質に関した理論について,「影の銀行の台頭と凋落は,恐ろしいほど先見性があり,この数年の世界の金融システムのめまぐるしい動きを的確に説明している」と述べている。 2008 年6 月には,米国のガイトナー財務長官が,ニューヨークの経済倶楽部で講演,“影の銀行システム”の規模は,2007 年で,5 大投資銀行の資産4兆ドル,短期(オーバーナイト)のレポ取引(Triparty Repo)で資金を調達した証券投資2.5 兆ドル,SIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークルーStructured Investment Vehicle)に関わるものが2.2 兆ドル,ヘッジファンド1.8 兆ドル,合計10.5 兆ドルに及ぶことを明らかにした。影の銀行の資産規模は,米国の大手銀行持株会社5 社(資産残高6 兆ドル)を上回り,米国全銀行の資産残高と同規模であるとの数字を示した。 ガイトナー財務長官が指摘した影の銀行を構成する4 つの部門について,大手の投資銀行は,自己の傘下にヘッジファンド,簿外のSIV を抱え,レポ取引で調達した資金で,自社の傘下以外の他のヘッジファンドにも資金供給をしていた。また,大手銀行持株会社も,傘下に簿外会社のSIV やヘッジファンドを抱えていた。そして,投資銀行やヘッジファンドの自己資本に対する外部負債残高や総資産残高の比率が高まった。このような,投資銀行やヘッジファンドの外部負債による投資は,住宅や商業用不動産価格の上昇期には,影の銀行に関与する商業銀行,投資銀行,ヘッジファンドに大きな収益をもたらした。しかし,影の銀行の資金循環の一部で流動性供給に問題が生じたのをきっかけにして,実体経済活動と金融・資本市場の信用不安が絡み合いながら,グローバルな流動性資金の不足を通じて,世界的な金融危機へとつながったのである。 2008 年には,5 大投資銀行のうち,ベア・スターンズ,リーマン・ブラザーズが経営破綻し,メリルリンチは,バンク・オブ・アメリカの傘下に入った。また,残るゴールドマン・サックス,モルガン・スタンレーは,2008 年決算では,負産残高を縮小しレバレッジ比率が大きく低下した。簿外取引のSIVは,銀行や投資銀行の本体に取り込まれたり,処分された。また,資産運用に失敗し,流動性危機に陥ったヘッジファンドが経営破綻に追い込まれた。 本論の内容は,世界の金融・資本市場で,影の銀行と呼ばれる投資銀行,ヘッジファンド,SIV,トライパーティ・レポ取引が如何に形成され,サブプライム金融危機をもたらす原因になったかを明らかにする。第1 章では,米国の住宅投資と金融の証券化の関係,米国の金融制度改革,金融機関の仲介機能の変化と影の銀行の形成,第2 章では,米国の大手投資銀行の経営破綻,第3 章では,影の銀行の破綻による世界的な金融危機の波及,第4 章では,影の銀行の形成に対する規制監督体制が十分ではなかったこと,資金の流れのグローバル化のなかで,各国の金融機関の経営破綻処理に関する法制が異なることが対応の遅れにつながったこと,サブプライム金融危機後の規制監督と金融機関の経営のあり方について考察する。
URI: http://hdl.handle.net/11149/1377
出現コレクション:2009年度・第57巻 第3・4号

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